今日の原稿

書いた仕事などについて

中学生に挟まれた話

今、私は試練の場にいる。
私はただ、急行列車で空いた席に座っただけのはずなのだが。
 
途中の駅で自分の両脇が空いた。
そこへ女子中学生の集団があらわれた。私の右側に座り、談笑を始めた。問題なかった。
 
ところがその後、彼女らと顔見知りの男子中学生の集団があらわれた。お互いにぶっきらぼうな挨拶をした。
そして私の「左側」に座った。そして、あろうことか「私をはさんで」会話が始まったのである。
 
私もいい年の大人である。
これまで、少なからぬ数の中高生と、少なからぬ会話をしてきた。
だから分かる。
私のすぐ右に座った女子と、私のすぐ左に座った男子はお互いを好いているのだ。懸想しているのだ。
 
こいつらが私をはさんで、罵りあい(という名のじゃれあい)を始めた。
バカな奴らだ。何がバカかって、2人以外の中学生が全員、2人の気持ちに気づいていることだ。
両端から、2人(と間に座っている私)を眺めてニヤニヤ、ヒソヒソしているのだ。
 
これは体験しなければ分からないかもしれないが、なかなかの場面である。
私が何をしたというのだろう。まさかJRの車内にこんな「精神と時の部屋」が現出するとは思わなかった。
 
浅はかな者は、私に「その場を去ればいいじゃないか」と言うだろう。
しかし今、2人の関係は、私というバランサーによって成り立っている気がする。
直接隣りあうと途端に怖じ気づき、しかもそのことを認めない幼さによって、自分たちの関係を不可逆に壊してしまう言葉を発してしまうかもしれない。
特に男子。
さっきからおまえの言葉にはヒヤヒヤさせられているのだ。
 
私は人が良い。お人好しはいつでも損をする。
左右それぞれの向こう側にいる者どもが忌々しい。
こういうのは、端から眺めるに限る。
中央の特等席など私は求めていないのである。