今日の原稿

書いた仕事などについて

結婚は優良債権

世間には、「結婚など不良債権を抱え込むようなものだ」という人がいる。
人が苦労して稼いできた金をムダに浪費するし、年とともに容色は衰えるし、いざ別れようとしても慰謝料だ財産分与だと金を奪うと。

これに対する反論として「長年連れ添う者がいる喜び」とか「家事労働を給与に換算すればいくらになる」とかいう人もいる。
しかし私個人としては、結婚の効用はもっと別のところで、実用的なものとしてあると思っている。

昔、日本人なら誰でも知ってる大企業の社長との雑談の中で、ふと笑いながら「妻に『またバカなことをやって』と叱られた」という言葉が出てきた。
一応言っておくが「偉い人との交流自慢」がしたいのではない。
そうではなくて、公の場ではどうやっても「イエスマンだらけになってしまう人」の例というわけだ。
また、いわゆる「超難関私立」と言われる学校の理事長夫妻と食事をしたときのことだ。
理事長が昔、ある人に怒って「貴様」と言ったという話題になり、理事長は苦笑いして「人を貴様と呼ぶのは侮っているわけじゃない。【様】付けしてるんだから尊敬して言ってるんだ」と冗談を言うと、隣にいた奥様が「そういう下らないことを言わない」とたしなめていた。
ずいぶん前、日野原重明さんも同じようなことを言っていた。
「だんだん偉くなってくると、人が自分に意見を言わなくなってくる。でも妻だけは、変わらず自分を叱ってくれる」
正確に書き起こしているわけではないが、そんな内容だった。

自分でも分かっていることだが、私は人との会話で、ズレたことをよく言う。
「それ、この場面、流れで言うべきこと?」という言葉を発してしまう。
返事もうまくない。やはりズレた返事をしてしまう。

昔はそういう自覚がなかった。独善的だったし、傲慢だったし、いつも偉そうにしていた。
諍いがあったときには、意を尽くして説明する努力も払わず不機嫌になって口をつぐむばかりだった。
それらを全て、いちいち指摘し、論理的に順序だてて説得し、教えてくれたのは妻だ。
「独身男は人間として未熟だ」という人がいるが、少なくとも自分はその通りだったと思う。
自分が独身のままだったらと思うとゾッとする。

ある程度年を食ってくると、上司・部下という関係でなくても「他人に異議をとなえる」ことがなくなってくることに気づく。
SNS上ですらそうだ。
「この人、妙なこと言ってるな」と思っても、いちいち「あなたは間違っている」なんてコメントは書き込まない。
むしろ賛同のコメントばかり書き込まれている。

ということは、私が変なこと書いた時にも「なんだこいつ」と思いつつ、何もコメントせずスルーされていくということだ。
これは非常に怖い。
だから右翼の人も左翼の人も、政治思想の投稿をする人は書き込み内容がどんどん先鋭化していく。
事情に明るくない「普通の人」には、もはや何を言っているのか分からない代物ができあがる。
ギャグで言ってるのかどうかも分からないものもある(たとえば、差別を許すな!と言いながら敵の出自や学歴をあざ笑うようなことだ)。
たまに「あなたの言っていることはおかしい」とコメントする人は偉い。敬意を表する。
自分の投稿に対してそういう反論があれば、自分と全く肌が合わなかったとしてもありがたいと思う。

その一番身近な存在が妻だ。
妻には遠慮というものがない。オブラートに包まず、遠回しでなく、こちらが都合よく解釈することを許さず、徹底的に批判してくれる。
妻との会話でブラッシュアップされた話題は、公に出しても失敗することがない。

こんなに役に立つものはない。
社会で真に役立つのは信頼関係だ。
良い信頼関係の基礎を築くには、まず「人が嫌がることをしない」こと。

これかっこ悪いとか恥ずかしいってことを頑張ってやらないってだけで、いい人が周りに増えていくから。

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良い妻は常に優良債権。